日本政府・外務省の委託研究として1984年に作成された原子炉の軍事攻撃と事故に関するレポートのなかで、長期的に発生する健康被害や、除染事業の困難さについての予測もおこなわれていたことが判りました。
それによれば、慢性的な影響においては、「汚染区域から人々がほどなく移転」した前提で被爆の影響を考慮しています。しかし、汚染区域移転をして長期の被爆を避けたとしても、事故直後に放出される放射性物質をが呼吸に取り込まれる結果、主に肺がんを中心としたガンを発症と推定。気象条件次第で最大24000人がガン死亡と結論づけています。これは急性死亡を免れたとしても被る、長期的な健康被害予測についての箇所です。
また同時に、放射性物質を除染する困難さについても当時から指摘。汚染される面積の広大さを勘案に入れると、有効的な実施は困難であるということが30年前から認識されています。
以上の報告内容の存在からは、福島事故後の政府対応や、補償問題、再稼働問題についていくつかの問題が提起されます。まず、福島では広域除染の事業が多くの予算を費やして実施中ですが、その有効性についての議論の中でこのレポートが参照されたかが不明です。さらに、政府や東京電力に対して提起されている訴訟、ADR、その他の紛争の中でもこの報告書の示す当時からの政府認識が、過失の有無等について指摘されていない可能性もあります。(知っているのにそれを無視したら問題ですし、逆に「調べようともしなかった」というならそれも過失があるでしょう。)
そして、現在議論されている再稼働の是非や事故リスクとコストの問題、住民避難計画に関しても、この報告内容が参照されたかどうかは非常な疑問であり、もしそうでないとすると議論の前提が覆る可能性があると考えられます。
なお、このレポートは朝日新聞さんが入手して第一報を報じておられますが、それからいっさい、ガンの発生に関する長期的影響と除染が困難であるという箇所についてはふれておられません。
(ちなみに去年の新聞報道大賞は朝日新聞さんの報じた「手抜き除染」にかんするスクープ報道)でした。しかしながら、朝日新聞社はいち早く2011年にこの報告書を入手したと述べておられます。
すると、「除染の困難さ」はずっと認識しておいて、今さら不十分な除染の実態について報道してスクープをとったということになります。個々の記者さんのレベルではともかく会社としてのインテグリティがとれているのでしょうか。
【2022年8月14日補足】この1984年作成文書「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」は外務省ホームページで遅くとも2021年9月から全文がアップロードされていることが明らかになったのでリンクを追加する。
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(江藤貴紀)
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