この工事を進めるに当たっては当時、東京電力の経営者は1000億円の新しい債務がのしかかることについて、たいへん債務超過の懸念を示して、これに対して反対する立場を取っておられました。しかしながら海洋流出を止めないといけません、海への汚染を絶対起こしてはならないということで、私は当時のカウンターパートである副社長と話をして、この海への壁を作ることのプロセスを進めようと努力をしていました。
6月の14日、記者発表まで準備をしていました。そこでは四方を囲む遮水壁、ベントナイトというんですがその記者発表までをする予定だったのですが、最終的にはこれは延期されました。これは東京電力側によって、先ほど申し上げた債務超過の起こることを恐れる要請をうけて、当時の民主党政権が、その懸念を受け入れたのだと私は思います。
そして6月の27日、東京電力の株主総会の前日ですが、私は突然総理大臣補佐官の職を解かれることになりました。理由はわかりませんが、まあ少なくとも任命権者から任を解かれたことで、私はこの収束の作業から身を離れることになりました。そしてその後、民主党政権においてはこの遮水壁は作られませんでした。
そして2年半が経ったのち、自民党政権、安倍政権に昨年交代しましたが、壁の作られないまま地下水漏れが続いていたことが明らかになりました。7月22日、参院選の結果の後、投開票日の翌日に東京電力は福島第一原子力発電所の汚染水が、海に漏れ続けていることを発表しました。
安倍政権はその後、これを止めるために四方を壁で囲むというこの遮水壁の対策を発表しました。さらに東電任せでなくて、国が前面に出るということを総理は言明されました。この工法は私たちが考えていた工法と同じでしたが材料は異なっていました。私が検討していた当時はベントナイトスラリー・粘土石であったんですが安倍政権が提示したのは、凍土壁、土を凍らせてそして水を遮断するというものでした。
この凍土壁というのは技術的には前例がありません。過去にも一切、このような遮水壁を利用した遮水壁はないものです。そこで私は国会でもそのことは質してきました。かつて前例のないような、工法に頼って大丈夫なのかと。実はここに一番の問題があります。