福島第一原子力発電所事故について、政府事故調が、同発電所の吉田昌郎所長(故人)をヒアリングした聴取書に対する情報公開請求に対し、日本政府が多忙を理由に決定をいちど延長した後、公開を不適切として全く開示しない決定を最終的に下した。7月26日に弊誌へ到着した内閣府からの通知書で分かった。
この決定は菅・官房長官の発表していた安倍政権の見解に沿うもので、公開しない理由としては複数あげられているが、個人情報であることや情報を公開することで国民の間に誤解を招いて不当な混乱を生じるおそれがある、などとされている。
吉田調書の内容は、これを入手した朝日新聞の報道で今年になって判明(従って同社はすでにこの文書を入手している)。弊誌の見解としては、少なくとも同文書の内容の一部はすでに全国紙で広く報道されているのであるから、個人に関する情報であっても周知されており改めて不開示にする理由が無い。
また国民の間に不当な混乱を生じるおそれも、少なくともすでに報道されている部分を開示することによって改めて生じるとは考えられず(情報公開法6条の定めでは、開示しても差し支えない部分があるときにはその部分だけでも公開するべきとされている。)、むしろより広い資料を幅広く検討することで、そこからより精度の高い検証に近づくものと思われる。
さらに内閣府の見解では、まるで「いま政府が発表していることは事実であり国民に誤解を招かないが、その根拠となった文書を国民に見せると国民たちは勝手に解釈して誤解してしまう」というような、特権的な意識を感じる。だが筆者には何を持ってしていまの安倍総理や菅官房長の率いる行政府の理解力の方が、その他の私人らよりも優越していると言えるのかが理解できない。
そしてそもそも政府内部でも、原子力規制委員会にもこの吉田聴取書は共有されておらず(田中俊一委員長が、見たことが無いという旨の報道はすでにあったが、改めて情報公開請求したところ「原子力規制委員会のどこにも」この文書は渡されていないことが判明した。)、さらに与党自民党の議員らが閲覧を要求しても、閲覧は拒否されている。
(先週、アメリカ国防総省が本紙に情報公開した、福島事故時の米国太平洋軍が作成した資料の一部。軍事機密などの関係で、秘密指定区分は極秘に次ぐ「機密(SECRET)」であるが、センシティブな部分を取り除いて公開されている。)
さらに、今後の同種の調査事業に支障を来すおそれがあるとされているが、もし朝日新聞報道の通り、この聴取書の中身が政府の事故調査委員会において反映していないとすると「今回の事業事態がまともにワークしていない」ことになり、そのようなミスリーディングな「同種の調査事業」の遂行は、もう法的に保護するべき秘密でないと思われる。(なお、同報告書はアメリカNRCの立てた最悪シナリオシミュレーションや、1984年に外務省が行っていたことが2011年に分かった原子炉爆撃の際の被害予測資料、また近藤俊介原子力委員会委員長(当時)の作成した福島事故最悪シナリオとして2012年1月から公表されているものなどを全く反映しておらず、都合の悪い内容を片っ端から削除した内容に見える。)
そもそも、今回の政府事故調はいったい誰がヒアリングに参加したのかの正式なリストすら政府が作成しておらず、またそのこと自体と、聴取及び執筆に参加したゴーストライター陣の氏名が今年の7月になってようやく、判明したばかりで、透明性と信頼性にかける部分がある。
(原子炉1基への爆撃で、最大18000人ほどが急性死亡すると結論づけた、外務省の保有文書。)
この朝日新聞報道へは、批判的なジャーナリスト(門田降将氏)の方から、誤報であることが明らかで、内容も歪曲してあるおそれがあるとして、「朝日新聞社が」この文書の全文を発表するべきであるという意見もあり、韓国政府の情報機関との関係が疑われているLINE社の運営するサイト・BLOGOSで発表されている。ただ筆者としては、スジ論としてそもそも朝日新聞よりも「日本政府」がそもそもこの文書を公表していないので議論が紛糾しているのであるから、まず自主的に公開するべきは政府であるという考え方に近い。(なお、別に朝日新聞が発表してくれてもいっこうにかまわない。)
(アメリカ原子力規制委員会が今年、本紙に情報公開した米国政府の複数機関が協力して作成した福島事故、最悪シナリオについての検討資料の一部。2号機からのみの放出でも、最長で半径217キロ以遠が安定ヨウ素剤の必要となるエリアと計算されていた。このようなケースは現在の日本政府の規制基準や避難対策などには、全く反映されていない。)
なお本紙の他からもこの吉田調書については開示請求が出されており、そちらの請求者は開示が拒否されれば直ちに訴訟を提起する旨を表明・報道されている。本紙の対応は未定であるが(1)何もしない(2)行政不服審査法に基づいて、全面不開示を取り消すように不服審査請求をする(3)開示を求めて取消ないし義務づけの訴訟を起こす、が一般的には存在する。(2と3の対応は、両方を組み合わせて同時に行うことが出来る。)なお不服審査申立を行った場合には、不服審査の当否を判断する答申を出すに当たって、政府任命の委員らが吉田調書を見ることが出来る。(いわゆる「インカメラ審理」の規程)
なお米国の運用例であるが、個人のプライバシーに関する情報など普通は非公開となる情報であっても、例外的に保護するに値しないと思われたり開示する利益の方が大きいと判断されればその情報は開示される。今回の福島第一原子力発電所事故に対応した東電社員のフルネームやメールアドレスなどを大規模に公開したのが、その例である。仮に訴訟などになった場合は、日本の情報公開法にも存在する、同旨の規程が適用されると主張することになると思われる。
7月28日追記:7月27日付けで本紙は内閣府の情報公開・個人情報保護審査会に、不開示が妥当で無いとして、開示を求める不服審査請求書を提出した。書面の内容はこのリンクの通りである。
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【編集長 江藤貴紀】
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