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吉田調書の情報公開拒否に対して、政府へ決定取消の不服審査請求書を提出

2014年7月27日22時46分

吉田調書の情報公開拒否に対して、政府へ決定取消の不服審査請求書を提出

福島第一原子力発電所事故の政府事故調が作成した故・吉田昌郎福島第一原発所長ヒアリング調書について、本紙が今年の5月一八日付けで政府へ情報公開請求していたところ、昨日、安倍政権から正式な全面不開示決定が降りました



それを受けて、行政不服審査法という法律に基づき、政府内の第三者機関に対して不開示決定を取り消すことを命じる採決を行うように、本日請求を行っています。この制度は、開示を求める訴訟と二本立て・同時並行で行うことができます。今のところ、本紙が訴訟を行うかどうかは未定ですが、訴訟と不服審査請求と、それぞれ別ルートで違ったルールの下に、政府へ証拠の提出を要求することができます。(なお、不服審査請求の場合は何度も裁判所へ足を運ばなくてよいというのと、費用が無料であるというメリットがあります。)また裁判の場合、政府は最高裁まで争うことが多く、さらに牛歩戦術をよくとるため最終的な確定まで時間をより要するところ、まだ行政不服審査のルートの方が早い採決が出ることが一般的です。



政府に本日提出した文書の内容は、以下の通りです。*一部、法律的に硬い表現や記事に不要な箇所、および明らかな誤記などを手直ししてあります。また複数の書類に分割された部分を統合・編集して見やすくするとともに、添付書類に係る部分はネット上のリンクや画像を張るなどして随時、読みやすくしています。そのままの表現だと読みにくくなりすぎるために、この措置をとりましたが不服審査の内容自体は以下の通りで変わりません。




(行政不服審査法のあらまし。内閣府ウェブサイトより。)


なお通知から一日で不服審査請求は急きすぎと思われるかもしれません。しかしながら、開示までのスピード性を重視する趣旨と、また後に意見書提出の機会が設けられていることから、一刻も早く処分の取り消しを求めるために一日でドラフティングして、本日提出しました。


               吉田調書の公開拒絶についての審査請求書及び理由書


不開示決定取消請求で主張することの要旨:政府は、行政文書開示請求に対して、対象文書の内容が「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(いわゆる情報公開法。以下、法という)第5条第1号、第5号、第6号柱書きに該当するとして、全部の不開示を決定した。

 しかしながら、審査請求に係る処分の対象文書は、既に全国紙の朝日新聞社報道において広く知られている部分が多いなどするため、少なくとも既報の部分に関しては既に不開示とすることによって守られる利益が存在しない。なお法第5条5号(政府内部の協議などに係る情報)に関しては、そもそも聴取対象の吉田昌郎氏は私人であるから、国等の「内部又は相互間における」という同号の前提とする要件を満たさず、これを適用したことは失当である(このことは他の各号に関しても原処分が迂闊になされたことを推認させる証左となる。)。

 さらに法第5条6号柱書(同種の事務に今後支障を来すおそれ)に関して、諮問庁は聴取が責任追及のために用いないという前提で、任意の協力を得て行われている等と主張する。だがこの点、本件では、対象文書の被聴取者・吉田昌郎氏は故人となっているため仮に文書が公開されても同人が責任追及をされる恐れは存しない。加えてそもそも、聴取結果書を元にした政府事故調においては、その信頼性自体が揺らいでおり、今後の同様の事故調査の先例として保護するべき信頼性に欠ける面がある。なお、上記各号に該当する情報でも法の定めによれば不開示と開示の利益とを比較衡量して開示の可否を決するべきであるところそれを全く検討していない法解釈を誤った違法がある。むしろ事故真相の究明という政府事故調の趣旨かなどからすると、今回の聴取書は内容を公開するべきである。

 また、原処分には、理由付記(行政手続法8条)を十分に行っていない違法も認められる。

 よって原処分を取り消して全て公開するべきとの裁決をなすべきであり、また仮に全部開示をすべきとまで言えないとしても、少なくとも法6条に基づく部分開示をするべきとの裁決をするべきである。


一 処分の内容

原処分は、行政文書開示請求に対して、対象文書の内容が行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下、法という)5条第1号、第5号、第6号柱書きに該当するとして、全部の不開示を決定した(添付書類1・不開示決定通知書)。


二 法5条の適用に関して

1 公知の事実となり、法5条における要保護性の欠けた部分

しかしながら、審査請求に係る処分の対象文書は、既に全国紙の朝日新聞社報道において広く知られている部分が多い(添付書類3、4等が報道例)。なので、少なくとも既報の部分に関してはもはや要保護性に欠け、不開示とすることによって守られる利益が存在しない。

2 法第5条1号の適用について

 吉田氏はすでに故人である。従って権利の主体性を喪失しており、法5条1号の適用は無いと解するべきである。またもし仮に、故人に関する情報であっても法5条1号の適用があるという立場になったとしても、故人であれば時の流れとともに、その情報についての要保護性が薄らいでいくと考えられる。

 そして、法は5条1号ロにより「人の生命、身体、健康、財産又は生活を保護するため公にすることが必要であると認められる情報」である場合には、情報の要保護性と公にする利益を比較衡量して「不開示により保護される利益と開示により保護される利益の双方につき、各利益の具体的正確を慎重に検討する必要がある。」(宇賀克也「新・情報公開法の逐条解説第4版62項」)とされる。

 本件文書について検討すると、秘匿することで保護される利益としては吉田氏、その他東京電力などの事故対応関係者や当時の一般職及び特別職の幹部公務員らの職務に関する情報である。従って本号が趣旨として保護しようとしているプライバシー性は希薄である。実際、福山哲郎元官房副長官をはじめとする一部の被聴取者ら(これらの者の中には、吉田調書においても氏名などが搭乗する蓋然性が高い)は公開を容認している(添付書類5・朝日新聞報道)。

 一方、開示されることにより得られる利益について検討する。まず、福島事故のディテイルについて現場の指揮者である福島第一原子力発電所の所長で、かつ故人である者の貴重な証言であり項数にして700項を越えるとされている。そしてその内容には政府事故調の報告書と相反する部分もあるとされ、検証の必要性は大きい。

 また福島第一原子力発電所事故が、本邦で未曾有の事故であったこと、そしてその結果として(1)多大な資金を費やして設計された発電所が破壊され、また周辺地域も避難対象となるなどして多くの財産が失われ(2)漁業制限や、農産物の国内における出荷制限、また海外政府による日本産食品の輸入制限が行われたことから「財産ないし生活」へ与えた影響が甚大であったこと、(3)さらに、2号機のみからの放射性物質放出でも当時の風向きだと最大で福島第一原子力発電所から217キロメートル以遠において、健康被害を避けるための安定ヨウ素剤の服用が推奨されるとの米国NRCの想定が存在すること(添付資料8、9)や、同発電所から半径170キロメートルまでの地域がチェルノブイリ原発事故の基準によれば強制移転の範囲に含まれる可能性があるとの予測が近藤俊介原子力委員会委員長(当時)によりなされたこと(添付資料10)からすれば、原発事故が「人の生命、身体、健康」に与える影響が大きく、そのような事態が今後生じないように、福島第一原子力発電所事故の一次資料を公開する利益が極大的に大きいことは明らかである。



 従って、法5条1号ロを検討すると、公開によって失われる利益と得られる利益を比較衡量すれば、明らかに後者の方が大きく、5条1号該当情報であることは非開示の理由にならないと言うべきである。

3 法5条5号の適用について

 法5条5号に関しては、そもそも聴取対象の吉田昌郎氏は私人であるから、国等の「内部又は相互間における」という同号の前提とする要件を満たさず、これを適用したことは失当である(このことは他の各号に関しても原処分が迂闊になされたことを推認させる証左となる。)。

 仮に諮問庁で、この文書が法5条5号の対象となるという主張を維持される際には十分に説得的な理由をお示しいただきたい。またその場合、おそれの内容と存在についても説得的な理由の提示を願う。

4 法第5条6号柱書きの適用について

 さらに法第5条第6号に関して、諮問庁は、聴取が責任追及のために用いないという前提で、任意の協力を得て行われているので公開できない等と主張する。

 しかしながら、「第6号柱書き」については、「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」がなければならず、「「事務又は事業の性質上」という表現は当該事務または事業の内在的正確に照らして保護に値する場合のみ不開示にすることを明確にする趣旨である。「適正」という要件を判断するに際しては、開示のもたらす支障のみならず、開示のもたらす利益も比較衡量しなければならない」(宇賀克也「新・情報公開法の逐条解説第4版」86、87項)とされる。また「「支障」の程度にはついては、名目的なものでは足りず、実質的なものであることが必要であり、「おそれ」も、抽象的な可能性では足りず、法的保護に値する程度の蓋然性が要求される」(同上)ところである。

 本件について要保護性の程度を鑑みると、対象文書の被聴取者・吉田昌郎氏は故人となっているという事情がある。そのため仮に文書が公開されても同人が責任追及をされる恐れは抽象的にも具体的にも存せず、同種の事務を今後行うとしても実質的な支障が存在する蓋然性が存在するとは言えない。(また、同人へ資料の非公開を前提としてヒアリングを行ったことの証拠について、その説明を行った資料があるならばより積極的に諮問庁は理由書で提出するべきである。)

 加えてそもそも、聴取結果書を元にした政府事故調においては、その信頼性自体が揺らいでおり、今後の同様の事故調査の先例として保護するべき価値に欠ける面があり、ますます法的な要保護性は低い。

 すなわち、まず吉田氏以外への聴取も含めて、聴取に当たった職員が誰であるのかの正確な名簿すら政府事故調は保有していないことが別件の情報公開請求で明らかになっている(添付書類11)。


言うまでも無く文書の作成者が誰であるかは、その文書の信頼性を左右して、また後に検討を行うための重要な要素である。)。さらに、吉田調書の内容のうち重要な部分が、政府事故調の報告書から完全に抜け落ちていることは朝日新聞の2014年報道で明らかになった(添付書類3、4)。例えば添付書類3の10ページ目によれば事故発生時において福島第一原子力発電所の所員の9割が命令違反を犯して逃亡したことが吉田調書に記述されていたという。(報告書の結論部分をどうするかはさておき、そのような論点があったことは触れられてしかるべきである。)更に政府事故調の報告書は作成途中に存在が明らかになったいくつかの重要文書、例えば2011年12月24日に毎日新聞が報道した近藤俊介・原子力委員会委員長(当時)作成とされる福島事故の被害予測シミュレーション(添付書類10)や、2011年7月に朝日新聞が報道した外務省の原子炉事故に関する1984年委託研究書(添付書類6、7)などについて、一切触れていない。(なおこれらはいずれも、私人である申立人においてすら、それぞれ2011年9月と2012年2月に入手できている。)

 一方、開示された場合の利益について検討する。まず、本件文書は政府で原子力安全行政を担当する原子力規制委員会すら保有しておらず今後の行政運営に参考とすることができない状態である(添付書類12)。そして、同委員会の田中俊一委員長も「読ませていただきたい」とおっしゃっている状況である。そうすると、本件文書が開示されれば我が国の原子力規制行政についても資するところが非常に大であると評価できる。さらに事故真相の究明という政府事故調の出発点にある趣旨からすると、今回はその事故調査委員会の報告内容の信頼性自体を検証することが、今後の同種の事務や事業を行う際の重要な教訓になるのである。

 従って開示された場合の利益と不利益を法第5条第6号柱書きについて検討すると、前者が後者よりも大となり、法第5条第6号は非開示の理由にならないと言うべきである。

 (なお類似の事例に関しては、米国政府がアメリカ連邦情報自由法(FOIA)に基づいて福島事故の関係文書について開示の利益を比較衡量した結果、東電社員らの氏名を公開(氏名などは米国法の下でもプライバシー関係情報として非開示が原則的な運用である。)、諜報機関であり原則として公開が完全に禁止されているNSAの活動(添付書類14、2枚目1行目「NSA is reporting that 2 meters of fuel in Unit 2 is uncoverd」)を開示している。また、米国国防総省がアメリカ太平洋軍の機密指定を含む文書(添付書類16)まで開示しており、これらが同様に比較衡量の定めをしている外国法の実践例として参考になる。)

三 行政手続法上の違法について

 また、本件不開示決定通知書には「不開示とした理由」が記載されているが、全体として存在する文書のどの箇所にどのような情報が記載されているか説明として了知できない。加えて、根拠条文として挙げられた法第5条の第1号、第5号、第6号柱書きに該当する部分が、おのおの理由のどれに当たるのか具体的な記載が無い。

 また第5条第1号および第5条第6号について、開示の利益との比較衡量をしたのかどうかについても説明が無く、理由付記の不備が甚だしい。

 以上の通り、「不開示とした理由」が不明であるから、理由付記(行政手続法8条)を十分に行っていない違法がある(添付書類1)。(なおこの点、国防総省の開示文書はページごとに段階を分けて別種の機密指定を行っており、また不開示理由も箇所ごとに厳密に示しており、行政手続き法の母法の運用例として、我が国の法に係る行政手続法の運用に際しても理由付記の手本として参考になる。)

四 結論

  よって原処分を取り消して全て公開するべきとの裁決をなすべきである。また仮に全部開示をすべきとまで言えないとしても、少なくとも法6条に基づく部分開示をするべきとの裁決をするべきである。


参照 添付書類一覧


1 行政文書不開示決定通知書 閣副 第516−9号 平成26年7月18日(写し)

2 審査請求理由書

 「機密」指定を含む福島事故に関する国防総省・開示文書(18ページ)

3 「吉田調書 フクシマ・フィフティーの真相」 朝日新聞デジタル

4 「吉田氏、非常冷却で誤った対応思い込みがあった」 朝日新聞デジタル

5 「原発事故の調書、年内にも公開へ 本人同意分をHPで」 朝日新聞デジタル

6 「原発への攻撃 極秘に被害予測 1984年に外務省」 朝日新聞デジタル

7 「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する1考察」(写し・表紙のみ)

8 「アメリカ政府NRC 福島事故の最悪シナリオを2014年に情報公開」エコーニュース

9  米国原子力規制委員会作成文書で、申立人の開示請求に対して公開されたもの1

(公開URL http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1400/ML14008A127.pdf

10 「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」

11 行政文書開示決定通知書 閣副 第416−21号 平成26年6月17日(写し)

12 行政文書不開示決定通知書 原規総発1406202号 平成26年6月20日(写し)

13 「原子力規制委員長 吉田調書 読んでいない、知らない」朝日新聞デジタル

14 米国原子力規制委員会作成文書で、申立人の開示請求に対して公開されたもの2(抜粋) (公開URL http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1401/ML14015A439.pdf )

15 米国原子力規制委員会作成文書で、申立人の開示請求に対して公開されたもの3「ET Chronology Descending」(執行部時系列議事次第)(抜粋)

(公開URL http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1212/ML12122A950.pdf )

16 2014年7月21日付・国防総省開示文書「Reply To: USSTRACOM/JOCS 901 SAC BLVD STE 2A5 OFFUTT AFB NE 68113」

(4枚目右上などにSECRET指定・3枚目などはUNCLASSIFIEDで秘密指定なし)  


以上。


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