世界的に流行しているエボラ出血熱が国内で生じた場合を想定して、夏以降から練り上げてきたとされる内閣府の対応策では、地方自治体や航空・病院などの民間事業者との情報交換についてはまだ全く案がないことが、情報公開請求への応答で分かった。
これは、10月29日朝日新聞朝刊の中で日本政府が「内閣危機管理監の下で(エボラ出血熱への)対応策を練ってきた」と記載のあったうちの「対応策を知ることを出来る文書」対象に内閣官房に提出した情報公開請求に対する内閣府からの電話連絡で判明した。朝日新聞に書いてあった内閣府の対応策というのは、国の省庁(厚生労働省や国土交通省)との連絡に留まっているという。
内閣危機管理監は、地下鉄サリン事件などの驚異的な事態に対応する際に、内閣府の中で危機管理に司令塔としての役割を果たすために創設されたポストでこれまで歴代6人の全てが元警察官僚でうち5人が警視総監経験者という治安行政系の高位ポストとなっている。
(首相官邸HP資料より。NSC創設にあたっての会合資料だが内閣危機管理監の役割が分かりやすく図説されている)
しかしながら、今回のエボラ出血熱流行は2013年の12月に西アフリカで始まっているにもかかわらず、10ヶ月以上がたっても危機管理の司令塔になる内閣危機管理監と病院や航空会社、鉄道各社などとの連絡体制がまったく国内で作られていないというのは、ポストを作った趣旨を達成できていないでダメだと思われる。
もっとも厚労省や国交省が各々、これらの機関と連絡を取る体制については省庁ごとに準備をしているかもしれないが、内閣の下への集約的な情報交換の統一的な手順が存在しないのはたしかである。従って情報がバラバラで混乱して手をこまねいたせいで有効な対策が打てなかったという福島第一原子力発電所事故のパターンが彷彿とされる状況であるといった方がよい。
また、次に問題となるのは情報公開へのレスポンスの遅さである。内閣府の担当官が電話連絡での取材において大まかな状況を教えてくれたのはせめてもの救いだが(注1)、11月17日付けで出された通知文書では、省庁間における連絡体制にかかる情報公開の応答期限を2015年の1月5日まで延期することを決定。
本来的に情報公開請求というのは(歴史的・事後的に事態を検証する意味もあるが)政府の政策について可及的速やかに公開することで、専門性の高い医師などを含む国民の間で議論を深めてその中でよりよい対応策を練るという意義がある。なのに開示の期限が来年でしかもエボラの流行が始まってから1年以上先では制度の目的がまるで達成できない(エボラは実際、いつ日本に入ってきてもおかしくない)。もっとも現在の業務で忙しいという可能性も十分に考えないといけないが通知書によると「関係者への確認、文書の探索に時間を要する」とあるため対策案は錬っているけれど、その手順の文書などがまとまっていないようだ。
(米国・国務省HPにある、情報公開請求の提出フォームより。「緊急の必要」がある場合の取扱について述べられている」)
なお、海外の立法例では米国連邦情報公開法が、人間の生命に関わる際などに、速やかに情報公開への対応を行うという規程を定めている。具体的には、情報公開請求者が急迫した開示の必要な事情を主張する機会が設けられており、アメリカ行政機関が緊急の必要があると認めればその緊急性を考慮した上で素早く情報公開への応答をすることとなっている(そうしないと、大急ぎの必要がある情報公開請求を出しても、返答が得られたときには時に機を逃すことになり、情報公開請求の意味がなくなるからである)。
日本の情報公開法でも同種の規程の整備が急がれるというか、今でもまだないのはとても問題だと、今回にエボラ出血熱が流行した後で分かった。だが今は安倍晋三総理大臣の決断により、衆議院が解散されて来月は総選挙に忙しくて、国会で法案が審理されるのは選挙が終わってからになる。もちろん情報公開法だけでなく、エボラ出血熱自体についての特別な対応法案の整備も、やっぱり選挙が終わってからである。
従って、最低限望むことができるのは、今ある法律のなかで各省庁の公務員がエボラへの対策を練り上げてくれることだけである。現在の政権はわりとタカ派っぽいことを言っているが、実際には消費税の増税のタイミングをどうアナウンスするかとか議席のことを考えてるだけで、ぜんぜん非常事態についての備えは出来ていないことになる。
(注1)電話口でのやりとりなので記憶が完全に確かではないが「この範囲の文書はないので、請求を縮減しないか」というご提案だったと覚えている。
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