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【書評】アメリカ情報公開法で、NSAにどこまで迫れるか

2013年12月13日02時36分
カテゴリ:学問・勉強

【書評】アメリカ情報公開法で、NSAにどこまで迫れるか

NSAは、その存在自体が秘匿されていた機関だが、その存在を明らかにしたのはジェームズバムフォード。彼はこの機関について、アメリカ情報公開法を駆使して調査、1982年に出版した Pazzule Palaceで、NSA研究の第一人者になった。


では、彼と同じ様にアメリカ情報公開法を使用してNSAについて、どこまでせまった報道が可能か。その問題意識から、ジェームズバムフォードの新著The Shadow Factory を通じて、NSAへの取材方法として現在でも情報公開請求はどれだけ有効かを調べることとする。




(出典:Wikipedia英語版 James_Bamford より。「彼のパズル・パレスはNSAについて書かれた初めての本であり、情報公開法の徹底した使用によってその執筆が可能になった」という旨である。)


The Shadow Factoryは9.11事件以降のアメリカNSA、国家安全保障局の変化を主題とした本であるが、読む前の出発点として、弊誌が調べたところジェームズバムフォード氏が(自分自身で)情報公開請求をNSAにかけたのは1998年12月までであり、処女作のパズル・パレス執筆前までに開示請求したものが8割程度である。(NSAに対して弊誌のが「ジェームズバムフォード氏がこれまでNSAにかけた情報公開請求の内容すべて」を情報公開請求して開示された結果、判明。)そのあとも彼はBody of Secrets(2002)とA Pretext for War(2005)と本書という3つのNSA関係の著作を出しているが、情報公開請求にたよる比重は圧倒的に下がっている。*


ではこの本の出典はどうなっているか。それは347ページから始まるNotes(脚注)によると、ソースは政府のリポート、報告書の他は新聞・雑誌やテレビ報道などの公開情報と、あとは著者自身によるインタビューである。インタビュー対象は匿名の「安全保障の専門家」「CIAの幹部職員」「インテリジェンス部門の幹部」などだ。


これらの情報源にアクセスが可能だったのには2つの理由があると考えられる。


一つには著者自身がアメリカ陸軍のインテリジェンス・オフィサー出身でいわばインテリジェンスコミュニティの一員だからである。この部分は本紙スタッフのような、外国人、スパイ活動分野の門外漢には乗り越えがたい敷居である。


一方で、もう一つは米国の諜報活動分野内部でのライバル意識、縄張り争いである。


(1)実は1999年に、NSAの通信傍受プログラム、エシュロンの内容がアメリカ議会で追求されたことがある。このプログラムが、米国民のプライバシーを侵害しているとして、批判の急先鋒に立ったのは、ボブ・バーという共和党の上院議員である。だが彼は実は元CIAの職員として連邦政府でのキャリアをスタートさせている。(14ページ)もっとも、プライバシーを無制限に侵害してよいのかという疑問は、スパイ機関内部の人間や出身者であっても有している場合がある(顕著な例がスノーデン氏)ので、ボブ議員の批判を「単なる組織同士の争い」で片付けてしまうのは失礼かもしれない。


またCIAのCTC(カウンター・テロリズム・センター)がNSAを、シギントだけ提供すればいいATMの様に扱った」だとか「コメントは付けずに生情報だけを送れ」と命令してきたとか、傍受した情報の解釈に争いがあった場合にはCIA長官のジョージ・テネットが部下のCIA職員の意見ばかり取り入れていたという不満も記されている。(17ページ)


(2)加えて、この本の著者自身が陸軍のインテリジェンス部門出身である。この背景にもやはり、アメリカ国内での諜報機関同士(陸軍のインテリジェンス部門とNSA)による政治的対立がある可能性も否定できない。


ここから教訓を得るとすれば、NSAについての何らかの情報を有していると思われるアメリカ国内の別の機関に、より甘く情報が開示される可能性もなくはないのかもしれない。ただそれでもやはり、米国内の諜報機関でインナーサークルにいる人間でなければ取材、報道は相当に困難そうである。


以上、この記事は100%の書評というよりは「ある種の目的を持った読書の仕方の例」である。なので書評として完結しているわけではない。むしろ、(1)情報公開法の使い方、とくに目的意識を持ったそれを理解する一助(2)情報公開法の利用の前段階における下調べの例示(3)海外政府機関、特にNSAへの取材に際しての情報共有を目的としている。


 

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