ジュリアン・アサンジ氏が代表を務める内部告発サイトWikiLeaksに米国から漏洩した文書の中に、海上自衛隊の隊員が中国人妻にイージス艦の秘密情報の入ったHDを渡していたとされ、それが押収された防衛省機密漏洩事件を受けて米国が作成した秘密公電(SECRET NO FORN 秘密・国外秘指定)が含まれていることが分かった。
アメリカ側は日本の秘密保持体制について複数の問題点を指摘。その中でそれまで続いていた自衛隊の隊員と産経新聞記者の職員相互交流が取り上げられている。この人事交流が存在自体があまり知られていなかった。現在も続いているのかは不明だが、それが米国から機密保持上の問題点として指摘されていた点で注目される。
(サイバー上の秘密保持体制のあとに続いて、特に産経新聞と自衛隊の関係が秘密保全上のネックとしてあげられている。)
また日本は秘密保持法制度の制定だけではなく、秘密保持を行う組織的風土の欠落を改善することが必要であると、この漏洩文書のなかで米国は嘆いている。具体的には、政府高官が余計な話をもらしたり、また中堅の官僚が虚栄心を満たすためにメディアへリークしてしまう問題があるいう。
とくにイージス艦の秘密漏洩事件で米国側が不満を抱いた点としては、国の警察庁が各地の都道府県警を十分に指揮するフレームワークがなく、また「潜在敵国」(明らかにここでは中国を含む)へ秘密が漏洩したかどうかの分析よりもさっさと犯罪捜査にけりをつけたいという日本の警察への不信がある。
(この中では、神奈川県警がハードディスクドライブへ米国のアクセスを与えなかったことや、日本政府から直接の情報が渡されずメディアへ出された情報が寝耳に水であったことへの愚痴が述べられている。しかしながら筆者には、何らかの日本側の機密を米国に隠しておきたいので日本側はあえてハードディスクを渡さず秘密も共有しなかった可能性があると思われる。)
この事件はてっきり公安事件の色彩が強いものと、少なくとも筆者は考えていた。しかし米国側の観点からは意外にも、日本の警察機構が刑事事件としての解決を情報収集や秘密保持・ダメージコントロールを重視していたということになる。この原因が、①公安であっても警察は思いの外に刑事事件としての立件を重視しているからか②予想よりも捜査の前面に刑事警察の側が出てきていたからか、明らかではない。
なお、このイージス艦機密漏洩事件を受けてはアメリカ側が日本政府のリーダーへ「介入」を行って態度を変えさせることに成功したと記述されている。具体的には、国務長官、国防長官、国家情報長官と海軍作戦部長がプレッシャーをかけて日本政府もようやく問題の重要性を認識したという(もっとも、このあとに、日本側のカウンターパートはいつもの調子で変革には抵抗するだろうとも述べられている)。いずれにせよ、かなり上から目線の書き方である。
9月23日追記:自衛隊員の産経新聞社への受け入れについては、2004年時点で週刊金曜日に報道されていたことが判明した。それによると、総理番として取材を行うなどしていたようで、メディア関係者の間では、ある程度しられていたようである。
ただ、それだけでは「防諜上の問題」になる理由がよく分からない(機密保持の上で問題が生じ得るとすると、産経新聞社から自衛隊への派遣のほうだと思われる)。この点は産経新聞社広報部に現在も取材中である。
そして末尾では(秘密保持に関する)信賞必罰、つまりアメとムチについて、(米国政府内のと思われる)各機関で合意しておくことが重要とある。
この文書は全体として、日本政府の貧弱な機密保持体制に対するアメリカ側の不満の強さが表れているWikiLeaks漏洩アメリカ側秘密公電であり、アメリカ政府の秘密保持に対する意識を知るためのとても貴重な資料である。
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