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ニコニコ動画 政治アンケートを個人情報と紐付け中 第三者への提供も可能な定め

2014年4月30日20時28分

ニコニコ動画 政治アンケートを個人情報と紐付け中 第三者への提供も可能な定め


【要旨】大手動画サイト、ニコニコ動画はコメントの出来るYouTubeの様なものと、これまで捉えられてきたかもしれない。しかし同時に、個人データを入れ込まないと閲覧が出来ないという性質を持ち、管理者に対する匿名性を失った2ちゃんねるの様な性格も有する。他のユーザには見えない状態で匿名のコメントができるというのが2ちゃんねると共通するニコニコ動画の特徴であり、そのため「本音」や悪ふざけを言えるが、これには利点だけではなく「怖さ」もある。利用規約上の定めに基づけば、サイトの閲覧履歴、コメント内容や思想に関係するアンケートの回答と詳細な個人情報が管理者により結びつけられているからである。

 もっとも一応は利用規約で個人情報保護の定めがあり、個人情報の第三者への情報提供は規約にある企業のみが今のところ対象である。しかし実は、この利用規約はユーザの同意なしに一方的に変更できる。また利用規約の締結に当たってユーザと契約するのは、ドワンゴ社ではなく子会社のニワンゴ社(取締役として昨年2月まで、2ちゃんねるの西村博之氏が在籍)である。そしてアンケート内容には間接的に信仰する宗教を推認できる項目や、ナショナリズムを鼓舞するなど、思想調査または意識操作をしているような項目も含まれる。

 最後に、同ウェブサイトを利用したデータには、流出の危険があることは、昨年の夏に生じた2ちゃんねるの●流出事件を例とすれば思い出されてよい。以下、登録時の利用規約をたどるなどして詳述する。



まず、上記の利用規約によれば、ニコニコ動画は、以下の通り、情報を保管することができる。


「運営会社は「niconico」上におけるテキストの書き込み及び利用者がニコニコ動画の利用に際して行った全ての行為に関して、当該行為の記録並びに当該行為を行った利用者に関する全ての情報(当該利用者の個人情報、アカウント登録に関連する全ての情報、その他利用者による「niconico」の利用に関する全ての情報、運営会社が確認したIPアドレス及びタイムスタンプ等ネットワーク上の全ての情報を含みます)を保存・開示・提供することができる」


そしてこの同社が保存、開示、提供できる情報の幅は凄まじく広い。まず、閲覧するために子細な個人情報が登録の際に必要であり、この点が米国の動画サイトであるYouTubeや匿名掲示板2ちゃんねるとの最大の違いである。もっともこの時点では仮名で登録することも実質的に可能だが、少なくともメールアドレスの登録は必須だ。さらに画質の高い動画を視聴したり、投稿したりするための「プレミアム会員」という有料会員になった場合には、クレジットカードの登録が必要のため、精度の高い個人情報が入力される。




(ニコニコ動画は閲覧に会員登録が必須。YouTubeとの最大の違い)




(通常の会員登録に必要な情報)




(プレミアム会員登録に必要な情報にはクレジットカード情報も含まれる)


そして利用規約は、利用者の同意なく一方的に変更できる。また利用規約を利用者との間で締結するのは、ドワンゴ社ではなく子会社のニワンゴ社(2ちゃんねるもと管理人・ひろゆき氏が取締役を務めていた)である。(この辺り、ニコニコ動画は運営法人と責任の所在が分かりにくいきらいがある。)なお実際に規約の一方的な変更がウェブサービスにおいて問題になる例は多く、例えば昨年のFacebookにおけるプライバシー・ポリシー変更はユーザや米国政府との間で問題となった。従って突如、規約を書き換えられる心配は杞憂とはいえず、その場合は後述のような政治的見解も含む「匿名」と思って書いた内容が、第三者に個人情報とともに提供されることも有り得る。(こういった個人情報流出事件の場合には、事後的に裁判をしても無駄であったり間に合わないことが多いと、後述の「2ちゃんねる個人情報流出事件」からも、想定される。)


では、保存される情報の種類はいかなるものか。前出の規約によれば、利用者が「ニコニコ動画の利用に際して行った全ての行為」であるとされる。当然これには、閲覧した動画、投稿した動画、検索用語、書き込んだコメントなどが含まれる。誰もみていないと思って、Facebookの実名アカウントやツイッターで行なわないような「本音」や悪ふざけをしたコメントを投稿していればそれも含まれるし、特殊な趣味の作品を見ていたらその履歴も個人情報とともに残ることになる。さらに問題になるのが、ニコニコ動画の実施している「ニコ割」という、動画が止まって出てくる強制的な割り込みアンケートである。




この「アンケート」は10万人以上の規模で実施され、同社によればネット最大規模の世論調査である。ここで、3つこのアンケートの特色を指摘する。うち2つは他のメディアの行なう政治関係アンケートとの違いで、もうひとつはネットビジネスの中での特異性である。


第一に、アンケート回答者の回答内容が、個人情報と結びついており、「あらゆる方法で利用」されるということである(ニコニコ動画の規約はサイト上の「あらゆる行為」に適用される。つまりアンケートの回答内容も例外ではない。)。例えば従来のメディア、NHKの場合は集計の際には個人情報と切り離すことや、調査に係る文書を鍵のかかる場所に厳重に保管して1年後には裁断・溶解する処理をするとHPで明示する。また朝日新聞の場合も「世論調査以外の目的で使用しない」とされている。これらとは対照的である。


第二に、毎回収集される個人情報の規模である。例えばNHK、朝日新聞の場合は3500人を対象としており、フジ産経系列のフジFNNアンケートや、テレビ朝日の母集団も1000人である。公表された数字によれば、これらの実際の有効回答率は、その中の半数強ほどだ。それに対して、ニコニコ動画の有効回答数、100000人は桁が2つ違っている。


そして第三に、ネットビジネスであるニコニコ動画は「政治」についても乗り込んできているという点だ。他の企業のアンケートでは通常、サービスへの満足度などは聞かれることはあってもダイレクトに政策への賛否を聞くことはとても稀だ。(アマゾンのレビューなどであれば政治関係の意見を述べることもあるかもしれないが、あれは「書きたい人が書く」という種類のものである)


ニコニコ動画の政治アンケートは毎月行なわれるのだが、回答者の個人情報は場合によっては第三者に提供される可能性が、今後においては否定されない。もっとも現在の個人情報保護法によれば、本人の同意が存在するなどの例外に当てはまらない限り、第三者提供は禁じられる。だが、規約において少なくともニコニコ動画のグループ企業に対してはすでに第三者提供の同意がなされており、この「規約」は一方的にニワンゴ社がユーザに断りなく変更可能であると書かれている。加えて仮にこのような第三者提供の規約(や、そのように将来、一方的に変更できる規程)が個人情報保護法のいう同意とならず効力を持たないとしても、法律は改正可能であり、現在も政府の有識者会議(座長・三木谷浩史楽天社長)らが実際に、個人情報保護法の改正案を作成中である。


さらにまた、ニコニコ動画が意図せずとも、ハッキングや関係者の持ち出しなどによる偶発的な流出の可能性もある。たとえば、ニコニコ動画の関連企業、すなわち同社がウェブサイトでまとめブログの広告斡旋を行なう一方で、ニコニコ動画のコメント監視業務を委託している未来検索ブラジル社らが運営していた2ちゃんねるは、昨年4万人規模で下記の通りの漏洩事故を起こしている。


この個人情報流出事件とは、ニコニコ動画の規約を利用者が締結する先のニワンゴ社で昨年まで取締役を務めていた西村博之氏が、別の会社または個人で運営していた匿名掲示板、2ちゃんねるで生じた。この際は、「●」と呼ばれる有料会員の氏名と書き込み履歴、メールアドレス、クレジットカード情報などが本人に知らされないまま保管されていたことが、去年8月の個人情報大量流出によって初めて発覚したものである。




(氏名、メールアドレス等とともに運営者から記録される対象の、気軽に書かれた「匿名コメント」の例。個人情報とともに流出すればセンシティブな情報である。仮にアンケートで、ある政党を支持すると答えた人間の書き込みデータのみが流出することになれば、その政党は立ち直れないイメージダウンを受けると思われる。)


以上、ニコニコ動画の個人情報保護に関するリスクについて指摘したが、「一見匿名のコメントが、クレジットカード情報などと結びついておりさらに政治アンケートの強制割り込みシステムも存在」した点は、あまり通常のユーザに意識されなかったと思われる。そのため、(たとえば2014年春の2ちゃんねる分裂事件に際しても)、数々の本音と思われるコメント・投稿などがなされた。しかしそれらが、第三者に提供される可能性は意識しておく必要がある。


なお、ニコニコ動画の内閣支持率調査は2009年9月17日に始まっており、その内容は以下のようなものだ。特定の政党を攻撃するものまたはサポートするものが多く、普通の意味での「世論調査」とはいえないものと筆者に思える。また項目の中には神道やある仏教の宗派に対する態度を推認させるもの及びナショナリズムを鼓舞しているような言い回しの様なものも含まれ、それらがより強く、ニコニコ動画によるデータ収集の趣旨と使用方法を懸念させる。




第一回の調査では、最初に民主党・鳩山新内閣支持率の支持率が、直後は支持政党が質問された。)




安倍内閣発足直後の調査は、Q1で自民公明が「圧勝」して政権与党に「復帰」したことについて質問されQ2で、その原因についての分析を求められる。安倍政権を支持するかどうかはそのような質問に回答した後のQ5の項目である。)




(安倍政権の発足後2回目以降はQ1で「内閣支持率」、Q2で「安倍政権で最も支持している政策」が聞かれる。逆に、「最も支持できない政策が何か」という質問項目はない。そして最後に、政党別の支持率を質問される形式が定番となっている。過去の調査一覧はこちらである。)




(自民・公明の勝利は「圧勝」と強調される。また福島第一事故については、過去の出来事であるとにおわせる言い回しが多い。なお、別の回に見られた靖国神社の参拝についての項目や支持政党は、一定程度だが本人及び家族の信仰内容を推認させる余地のある項目である。)


筆者は別に、ニコニコ動画の生み出した書き込みコメントやいわゆる「実況」など、その文化の正の側面を否定する訳ではない。しかしここは、動画の閲覧に際して政治的意見・信条を吐露するように促されるという筆者の知る限り世界で他にないサイトだ。このサイト利用者は公称3000万人であって多数のサンプルを有する。とするとドワンゴ社などのニコニコ動画グループは日系で最も精度と母集団のバランスの取れたビッグデータ(つまり個人情報の集合体)収集企業の側面を持っており、利用者もそのように捉える必要が出てくる。なお、収集、保管、利用されているその他の情報には、次ページのようなものも含まれる。


 

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