今日12月14日、衆議院議員選挙が実施されたが、野党が苦戦、与党自公の圧倒的勝利に終わると開票前から予測されている。その中で明瞭に12月4日の外国特派員協会での会見で今回はもう野党の負けだと述べていたのが生活の党代表、小沢一郎氏だ。彼や他の各党首領らをして野党の選挙協力に至らしめなかった原因は何なのだろう。そしてそもそも属人的な性質を抜きにしても小選挙区制はメカニズムとして2大政党制が進むといわれている。なのになぜ野党再編も選挙協力も、与党に対抗できるまでには進まなかったのか。やはり生活の党所属で、かつて群馬4区で2009年には衆議院議員に当選したにも関わらず、今回は立候補を見送ったという三宅雪子氏の言い分から考察してみる(注1)。
小沢一郎氏「野党側で自分の党が(優先だ)というふうなことを言い合っている限り、政権は取れない。ですから私はこの状態が続く限り、新しい55年体制になるのではないかと言ったことがあります(注2)。
今の安倍内閣、自民党内閣に不満を持って批判をしている人たちは国民の中に多いんですよ。だから私は言い続けていたのだけど自民党に変わる政権担当を出来る受け皿をまさしくみんなで作ることが出来たら、例えばこの選挙でも国民は安倍政権ではなく野党の統一体を選んだと思います。でも残念ながら新聞テレビでの報道のように(与党の圧勝に)なると思っています。
野党が受け皿を作れていたなら政権交代が可能だっただろうけれど、個別野党で闘うしかないというのが現実です。」(12月4日)
ーーーーはて、小沢氏の会見での発言を聞いて疑問に浮かぶのは、まずなぜ元は民主でまとまっていたのが現在のバラバラな野党になったままなのかだ。大学の政治学の理論では小選挙区制の元では二大政党になるのが合理的と説明されていおり、各党は合併や選挙協力を志向するというはずであった。
では理屈通りにいかないのはどう説明すれば良いのか。この点について、12月12日、東京目黒区で生活の党、三宅雪子氏にお話をうかがった(注3)。
三宅雪子氏「野党が集まれなかったのは政治家の間の個人的な感情、『私怨』が原因だと思います。前回の総選挙から2年たってもまとまらないというけれど、時間ががたくさんあればまとまるというものじゃないんです。むしろ今回の解散総選挙があったおかげで、まとまる契機が出来たと考えています。
(共産党は全ての小選挙区に候補を立てたけれど)、この点については、批判し過ぎるべきではないでしょう。というのは、すでに共産党が全選挙区に候補を立てるという方針が早くに固まったので、その後では選挙協力の交渉を持ちかけても、共産党として飲めない。また、共産党以外の野党が、共産党に対して選挙協力をした際の(デメリットを上回る)メリットを示せなかった気がします。」
ーーーーこれは、共産党の内在的論理を踏まえた説明としてなら、とても道理が通っているのではなかろうか。以上をしきつめるとつまり(1)人間関係が問題ということなので、とても素朴にゲーム理論的を応用して「得票最大化」をシンプルな政党の行動原理と仮定すると説明がつかなくなる。ただ個人の効用に着目して、政治家らの振る舞いが自己の効用を最大化しようとする「合理的経済人」の行動としてがんばって解釈すれば、得票や政権奪取で得られる快楽よりも、嫌いな人間と組む苦痛の方が政治家にとっては上回っていたとして、今回の選挙も説明がつくということになる。(2)またアクターが個人単位でなく政党などの集団単位である場合、一度内部で行った意思決定に束縛されて、選択肢の幅が狭くなってしまう。こういった点による様々な束縛要因は社会学・経済学分野の「合理的選択理論」でもなるべく考慮されようとしており、従って制度の説明として簡潔に言われているような小選挙区=二大政党制というほどナイーブな帰結を直接には生み出さない。
政治家の私的な感情や、ほとんどの国民が気づかない共産党内の内輪の論理が野党選挙協力失敗の原因になっているとしたら、二大政党制を施行する小選挙区制度は機能不全の状態にあると思われる。特に、共産党という一つの党の意思決定メカニズム(完全には伺えなかったがおそらく一度きまったことを非常に覆しにくいもの)くらいで、2大政党制自体の実現が阻まれているとしたら、その程度で破綻する小選挙区制——2大政党制の構図は砂上の楼閣だったということになる。
2年も経ってこの程度しか再編できないとすると、今後もほとんどずっと野党再編は無理なのではないかと思えてくるのが率直な筆者の感想である。そして現在の小選挙区制についての率直で説得力ある分析が、党という単位による束縛を所属議員らから解いた小沢氏と、今回は出馬を見送っている三宅氏から出てきているのは皮肉に感じられる。
追記:組織内政治と官僚制による慣習によって、国際政治でも一見すると国家としての合理的な意思決定がなされていないような状況が生まれると書いたのは『決定の本質―キューバ・ミサイル危機の分析』“である。国内の選挙と冷戦時の核戦略は遠いように見えるが、2014年衆議院議員選挙で結果に違和感をもたれた方は、米ソのが核戦争間近になったケースに関するこの類似モデルによる説明もご覧頂きたい。国であれ政党であれ、個人でない主体を擬人化してアクターとして想定し、なおかつ追求している効用を単純化する余りにも単純なモデリングは、妥当するのが極めて限定された場合であることを認識する必要がある。
以上は説明に留まって提案には至らない(そんな力量は筆者には無い)が、「感情」と「各党の意思決定メカニズム」が、小選挙区制——2大政党制の構図を崩したと言うことは改めて確認したい。
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(注1)立候補見送りの背景には、腰痛といった健康上の理由もあるということである。
(注2) ()内はその場での本人の発言ではなく、筆者の付け加えた補足である。
(注3)三宅氏にコンタクトを取らせていただいたのは、ちょうど筆者の書いたニコニコアンケートが行う思想信条調査問題の記事について、ツイートしていただいているのを見つけたのがきっかけである。
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