いま議論されている特定秘密の保護に関する法律案に関して、報道に与える影響についてうかがわれることがあったので簡単にお話しします。この法律については、報道機関自らが有罪判決を受けることがないとしても、情報公開法を利用する上で「事実上のリスク」と「法律に強い人以外に対する萎縮効果」が働いて障害が増える。だから心配な点があるなというのが弊社の立場です。(もっともこれは、同法に対して無条件に弊社が反対しているとか、悪法であると判断しているという訳ではありません。)
これについては、(1)「情報公開請求なんて法例に則ってやるものだから請求しても有罪になりません。『特定秘密』かどうかは関係ないでしょうそれは」という批判があり得るとは思います。あと(2)「そもそも『特定秘密』に指定されるような情報は、もともと情報公開請求しても、開示されないような秘密性の高い情報です。だからメディアの報道する内容に影響を与えないでしょ」との意見もあるでしょう。
しかし、(1)特定秘密保護法がメディアに問題になるのは、有罪を自らが受けることだけではありません。(2)また、情報公開請求をした場合に実際に開示されないかどうかだけが、メディアに影響してくるというわけではないのです。どういうことか簡単にご紹介します。
例えばですが、(1)同法違反の容疑のある公務員の人がいたとします。その場合にメディアが、関係省庁に取材をかけたこと自体や、特定秘密にあたる内容に情報公開請求をかけたことがある事自体が、同法違反の容疑に関する捜索差し押え物件があるとして、その対象であると考慮する積極要素になり得ます。(いわゆる「容疑者」本人でなくても、刑事事件に関する証拠を持っていそうな人であれば、その対象になるし、実際にTBSと日本テレビは捜査段階での差し押えをうけたことがあります。)
そうなると、令状の発布段階にも、その後の段階で捜索差し押えが適法であることについて争う場合も、積極面に考慮される要素になるわけです。それで、捜索差し押えを受けてしまうと、フィルムからテープからハードディスクから(ニュース映像にたまに移る、東京地検特捜部がたくさんの段ボールを運び出している様子を想像ください)USBまでかなりたくさんのものを持っていかれることになり得ます。そうなると、これは仕事になりません。(他にも不利益は色々ありますが・・・)
そして捜索差し押えの可否については、当該犯罪に関する刑の重さも考慮要素とされていますので、重い刑を科す特定秘密保護法が成立することは、それ自体でメディアにとってのリスク増加となる訳です。
さらに、(2)見落とされがちな論点ですが「一般の報道関係者は法律について必ずしも詳しいとは限らない」のです。今でも、情報公開法の運用がスムーズに出来ている人は少ないのが現実です。で、「秘密保護法」とかいう名前の法律が出来て「特定秘密」という風に法概念が増えれば、ますます混乱してきちんと法律を使えなくなると思います。
「法律を正しく知っていれば、そんな誤解はないだろう」というお話もありますが、みんながいちいち法律の勉強に諸々のコストをかけられる訳がないでしょう。弊社スタッフも特定秘密保護法について、法律的には不正確な言い回し(「行政訴訟を告訴した」など)を他のメディア関係者からうかがうことがあります。つまりこれはーーー「メディア関係者がもっと法律に詳しくなれ」とか「大丈夫だから安心しなさい」と言うよりもーーー「法律ってちゃんと認識されることの少ないものだから複雑にすると混乱する」証拠なんです。(11月2日追記)みんなが法律ぜんぶ知ってるなら、『判例六法』は不要って思いませんか?
以上のような次第ですが、弊社として「特定秘密保護法」へ、無条件に反対という訳ではないということは重ねて申し上げます。当たり前ですが、「デメリットが少しでもあるならば、常にその法律は悪法なのだ」なんて極端な考えは持っていません。
じゃあ具体的には、例えばですが令状発布を審査の段階でもっと厳密にやってくれる様に、刑事手続きに関する運用または法令が変更すればーーその程度にもよりますがーー強く賛成かもしれません。ただし、そちらの変更の方が特定秘密保護法案自体の成立よりも大変そうですが・・・・
以上は、メディア目線の話でした。
なお他サイトではクリアリングハウスの三木由希子さんが、特定方向の「コメントを取ろうとする人」に困っている例を書いておられます。あと研究者の方では、小谷賢さんが、とてもしっくりする感じのものを書かれたこちらのがあります。
まだデータがありません。