Q 昨年の、北大生イスラム国渡航事件についてお願いします。
宮田氏 (あの事件で出てきた)中田孝さんは個人的に研究仲間です。彼は優秀なイスラム法の研究者だと思っています。なお、もし日本にイスラム国の活動に関心を持つ人が居るとすると、これはイスラム世界と同じ動機ではないでしょうか。大学を出ても仕事に就けない、そして疎外感がある。なので自分たちを受け入れてくれるイスラム国に入ってもおかしくないのです。
昨年イラクニュースというメディアが、40人くらいの日本人メンバーがイスラム国にいると伝えました。そういう人たちは、実際の数は定かではないですが、自分たちの居場所を見いだしたいという理由だと思います。
Q 朝日新聞のものです。安倍首相の中東歴訪に触れられた。昨日国会で、前原氏の質問から安倍総理が、この時期に中東へ行ったのは間違いではないかという質問に対して、「テロに屈するわけにはいかない」という答えでした。人質がフランステロの後にいるあとで、中東に行ったのは致命的にマズかったという言い方もあります。しかし一部の世論調査によるとよくやった、安倍総理は悪くないという評価もあります。いかがでしょう?
宮田氏 きょうは日本人の記者がいらっしゃらないと思ったので驚きました。安倍政権になって中東政策が変わったかどうかという点についてですが、中東政策だけでなく親米的、アメリカとの協調姿勢を強調することをこれまでの政権以上に打ち出すようになっています。
さっきイスラムの人たちは日本に良い感情を持っていると言いましたが、アラブ諸国の人に知られたくないのですが、安倍政権になってイスラエルとの防衛協力をやることになりました。去年ガザで2000人の死者をもたらしたイスラエルと防衛協力をやるというのはあまり望ましいことではないと思うのです。
人質が取られてもあまり仕方がないのではないか。水面下の問題は分からないが、もしかすると安倍総理は今回の(人質事件の)ことを考えて中東を訪問したかもしれません。
アメリカとイスラエルの関係については、私はアメリカに居たこともあるので、アメリカとイスラエルの関係がどう作られているかは理解しているつもりです。これはアメリカにとって利益があっても、日本にとって利益とは限りません。日本がイスラエルと近づくのは、アメリカにとっては望ましくても、長年に日本人が作り上げてきたイメージが悪くなるのではないでしょうか。
安全保障というのは軍事力だけではありません。良好なイメージもまた日本を守ることになります。アメリカとの関係も大事ですが中東イスラム世界との関係も大事であるという気配りをした外交をして欲しいと思います。
Q イスラム国との交渉を日本の官邸はヨルダンに任せているのではないでしょうか?
宮田氏 そうするしかないのでしょう。日本はイスラム国に直接のチャンネルを持っているわけではないです。日本はずっとアメリカに遠慮して、イスラム原理主義の組織に対して多様なチャンネルを持ってこなかった、それが今回の解放が進まなかった一つの背景だと思うのです。安倍首相の発言にテロリストという表現がありましたが、イスラム国との公称において、「テロリスト」という言葉を日本の政治かがあまりに頻繁に使うのが彼らを刺激するのではないでしょうか。
アラブ世界から見たら、ヒズボラなどもテロリストでも何でも無いんです。小泉政権の時もテロリストという表現が軽々と出てきた。これを軽々しく使うところに問題があります。イスラム国と敵対する国が交渉のチャンネルになっているというのも適切ではないと思います。ヨルダンはイスラム国の脅威を間近に感じている国です。
ヨルダンというのは、ヨーロッパなどが作った中東イスラム秩序の産物で他にレバノンシリアイラク、パレスチナ問題もあります。イスラム国はヨーロッパが作ったそういう秩序を破壊してしまった。そういう国境線を破壊することが彼らの視野に入っているわけです。そういう、彼らが打倒することを狙っているヨルダンを使って交渉することが妥当かなという問題があります。
交渉過程を見るとイスラム国は日本政府をよく見ていると思われます。日本がアラブ諸国に2億ドルを援助するといった後に、そういう表現が出てきた。あの2億ドルの要求卯も日本の援助を皮肉りました。またヨルダンに対策本部を置いた後に、ヨルダンにいる囚人との交換を人質の解放条件に打ち出した。もしトルコに日本政府が対策本部を置いたら今回のような要求にはならなかったと思います。
Q フランスRTF放送ジョエル・ルジャンドル・小泉氏長期的なISILのアジェンダや、アルカイダとの関係についてお願いします。
A 欧米の研究者の表現ではオリジナルアルカイダという表現があります。元々のアルカイダはオサマビンラディンの元で、活動していた団体です。それが911を起こしたと言われています。ただあのアルカイダと、必ずしも具体的な接触のない人たちも自称アルカイダとなっています。イラクのアルカイダも、今イスラム国に入っております。
またサウジで出来たサウジのアルカイダも現在はイエメンで活動して、この前のパリの事件を起こしたといわれている。そして北アフリカにもアルカイダを名乗る組織があります。それらが統一した指揮を受けているとは思えません。それに対しては、イスラム国は集中した支配地域を持っているというのが違いだと思います。
彼らの勢力拡大は、90年代のタリバンのアフガンでの支持拡大と似ています。それは地域の指導者が支持を述べたことで発展した点です。これはイスラムが拡大した経緯に似ています。イスラムの発展というのは勿論軍事も使ったが地域のコミュニティリーダーが支持を述べることで勢力が拡がっていったんです。
アルカイダとイスラム国の決定的な違いは、行政能力があるところです。これはかつてのサダムフセイン時代の官僚が、イスラム国に参加していることによると思われます。
イスラム国の支配地域に物資が届くと、イラク政府がスンニ派に対して福利の改善を考えるべきです。そして、赤十字に変わる赤新月社というものがアラブ世界にあります。それをつうじて困窮する住民に医薬品などをあたえることができるし、それを住民にあたえるのはISILを助けることにはならない。
(今回の問題の背景には)イラク政府の責任が大変あって、そのためにイスラム国の勢力が伸びたのだと私は思います。これからISILがどうなっていくかはわかりません。しかし、イランの革命防衛隊など諸勢力がISILと闘っていると言います。ですが、色んなチャンネルを使ってスンニ派の困窮した人たちに支援をさしのべると言うことが重要です。
【取材・文 江藤貴紀】
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