そして、このレセプト分析の手法は使い方が適切ならばシステマティックに信頼性の高い応用が可能である。その一例であるとして、過敏性腸症候群(ストレスや生活の乱れで起こる腹痛の一種)を、分析したデータが、今年8月、JMDCから発表された。その結果を見ると、女性の方がやや高い傾向が出ている。
もっとも同社の本多功征ヘルスケア事業部事業部長は、それでも統計の母数が十分かどうかには慎重な姿勢を述べてくれた。「母集団として35万人は十分に大きいが、それでもこれが1000万人になったりしたら統計の結論は変化する可能性がある。また一定のバイアスはどうしてもついて回る可能性がある」と、今回の分析結果についても一定の保留をする。一方で、「現在マスメディアなどで公表される統計の分析結果は、歪みや隔たりの問題を含蓄している。母集団の絶対数はその統計分析に耐えるかどうかを左右する。」と述べる。まあ実際、怪しげな統計が大手マスコミでも大手を振っていることには、以前からたびたび指摘がされてきた。(参照「谷岡一郎、社会調査のウソ」それに比して、今回紹介するようなJMDC社のデータは、最低限、サンプルの数では圧倒的に多い。
しかしながら、医師や公衆衛生学の研究者にインタビューしたところ、サンプルの数だけでは当てにならないのではないかという意見が出てきた。つまり、「レセプト記載の病名は、実際の医師の所見とイコールではない。それでいいのかどうかはともかく、運用上保険適応のために合わせた病名を付けているのが実態」という指摘である。なぜかというと、日本の保険診療で出せる薬は、病名ごとに異なっていて、実際は効果があるとされている薬でも、別の病気であるということにしないと処方できないからだ。(これ自体の是非については議論があるが、ここでは省いておこう)
つまり、レセプト記載の病名は実際の病名と食い違う、そのためバイアスの大きくかかった結果になるので調査の方法としては信用できないという反論だ。しかしそれでも筆者は、疾病の罹患率に関しても大まかな傾向をつかむ際の手がかりとしてはやはりレセプト分析は有益な手法でありうると考えている。(2013年9月28日・追記、同10月13日、リライト)
さて、でもは他のJMDC社がだしたデータはそんなにバイアスの無さそうなものもある。たとえば、過去に行われてきた医療の適切性についてはある程度の信頼性はある研究が可能だ。一例として、日本人の概ね20万人以上が、生涯でみればかかることがあるとされる双極性障害(昔で言う躁鬱病と近いカテゴリーの疾患)における代表的な治療薬、炭酸リチウムの使用過程で、十分なモニタリングがなされていなかったことを示唆する知見がある。
また、医療費36兆円の使途についての分析も、これがしっかりとなされれば必然的に国全体の財政に大きな影響を与えるが、これについても同社のデータは我々に知見をもたらしてくれるだろう。
ただその後、レセプトについてのバイアスが大きいという指摘について、予定していた第二回の内容にかわって、「新薬の販売で医師の診断が変わる傾向を受けて、という記事」を掲載することになりました。(10月2日追記、10月13日リライト)
【文責 江藤貴紀】
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