10月27日、原美術館で開かれるイベントConstellationのちょっと前に、音楽を担当する「松本じろ」さんのインタビューが行われた。
これは、あたらしく公開される映画「星座」の映像を使った先行企画で、松本さんは映画の音楽とそのサウンドトラック(参照リンク)も手がけています。
この映画は、色彩のないモノクロフィルムに主人公が言葉をしゃべれないという「ない」のあふれた作品になってます。
しかし色々がないけど、音楽の音はとてもきれいなんです。清潔だけど潔癖ともまた違う、素直な音色の音楽を作ったのはどんな人なのだろう、でも予備情報が出ていないのでどうインタビューしたものか、ドキドキしながらお話に行きました。
松本じろ:(午後3時ころの昼下がり、おもむろに原美術館の一室にあったプレミアムモルツの缶を開けて)江藤さんも、飲んでいいですよ。
江藤:いやー、1年くらい禁酒中なんですよ。1回、破ったら夫婦げんかになって大変でした。
松本じろ:そうなんですか。うちも妊娠中なんですけどね(ゴクリ)。367日くらい飲んでるんですよ。海外に行くとき日付変更線を超えるでしょ。空中でも飲んでいるんですよね(一同、笑)あまり参考になることはないかもしれないけど、始めましょうか。
江藤:ええ、星座の音楽を聴いていたときの想像と、ルックスから関西弁の方言までぜんぶ印象が違いますね。
松本じろ:はい、普段はサッポロなんですよ。映画の星座もチラッとだけ出てるんですけどね、あんまり見るものとして美しくはないから出方を考えようって奥くん(奥秀太郎監督)と話してました。
江藤:映像の方の話になりますけど、今回は例外的にキレイですよね。あ、『白夜』もそうですけど。ふだんはケバいのが多い監督さんです。音楽を作るときはどれくらい監督さんと打ち合わせされるんですか?それとも既存の曲を持ってくる感じですか?
松本じろ:はい、僕は弾けるのが狭いから似たようなものだけど、撮り下ろしの曲ですね。今回も似てるし、前回(『白夜』)も似てるし。
江藤:とてもキレイですよね。
松本じろ:だいたい・・・そうですね(笑)自分の演奏会とかがあるときには、もうちょっとどうでもいいのを、汚いルックスにあったのをやってますけれどね。もともと小学生の時からクラシックギターとかやっていたんですよ。
江藤:そういう、素養もある。
松本じろ:はい、キレイな方の素養もある・・・
江藤:何だか控えめな仰り方ですね。そもそもベタにですがインタビューするときだから、基本情報として以前のとか探したんですが・・・・
松本じろ:ああ、ないです、そういうのはないですよ。
江藤:あれはなんでないんですかね。そもそもインタビューを受けたことがなかったとか、それとも途中で芸名を変えたとか。
松本じろ:いや、別にあの、あんまり関わりがないし僕にインタビューする人なんていないですよ。一度バンドを2005年くらいまでやっていたんですけど、そっから実は
『大工』になったんですよ。
江藤:大工ですか。
松本じろ:うーん、それで奥君とかに言われたらやるし、舞台とかのは少しやるけれど表だった活動はしてなくてホームページとかもないですしブログもやってないです。
江藤:そしてツイッターもやってないしフェイスブックもない。
松本じろ:やらないです。気持ち悪いから基本的に関わりたくないんですよ、そっちに。
江藤:それは余剰な情報を抱えるのがいやという・・・
松本じろ:うーん、なんか道連れになってしまうから、みんなが倒れたら道連れになりますからね。
江藤:それは元々ですか、それとも途中からでしょうか。
松本じろ:もうインターネットが始まったときからですね。まあ音楽を作るためにパソコンは使ってますけれど。
江藤:うちが思い切りインターネットでしかやってないですが・・・
松本じろ:うん、ご要望があれば大丈夫ですよ。だから別に毛嫌いしているとかではないんです。あんまり触りたくないだけですね。
江藤:お気持ちはよく分かります。僕も余りインターネットの発信はしたくなかったんだけど、たまたま手短で安価で色んなところに届けられるのでネットメディアを使ってるだけで。
松本じろ:うん、それは時代性で。
江藤:ちなみに、大工さんの方の話しに戻りますけど、なんで大工さんの方にいったのですか?
松本じろ:それはもともと好きだったんです。大工って言っても舞台のとか大道具もします。昔から好きですね。小学生の時にコンクールで賞を取って、11才の頃に新聞のインタビューを受けたんですけれど『成りたいもの』が医者か大工か、ギタリストだったんですよ。
江藤:2つ、ハイソなのがあって1つだけブルーカラー的なものがありますね。
松本じろ:解剖図鑑が好きだったんですよ。それの模写、脳みそとかが遺骨の模写をしていました。今のところ、そのうちに2つに関われて楽しいですね。
江藤:・・・その骸骨の模写とかをしていて通知表に「ご家庭でどういう教育をされているのですか」、みたいなことを婉曲に書かれませんでしたか?
松本じろ:いやーありませんでしたね。
江藤:ふむ、医者と大工とギタリストに興味がある小学校時代で、どういう学校に行ってられたんですか?例えば大阪教育大学付属、何とか小学校とかそれとも普通の・・・
松本じろ:普通の小学校とかから一番近い高校に行って、そこから野に放たれた感じですね。別に大学とかもいっていないですし。
江藤:そのときは、どういう風に世の中に出られたんでしょう?大工としてとか、コンビニの店員としてとか。
松本じろ:出たときから舞台音楽をやってましたね。18の時から舞台音楽をやっていて、バンドをやったりとかそういうことをしてましたね。
江藤:ということは、出る前から?
松本じろ:はい、高校生の時から芝居の手伝いをしたりとかちょこちょこやっていたので。
江藤:インタビューアーに舞台の素養がなくて恐縮なんですが、どういう劇団さんのを?
松本じろ:いやー、別に地方の小さいやつとかですね。ぜんぜん書く必要はないですけど、丹野健一とかいうブロック3000個を壊す人とか、そういう気の狂った人がいたんです。その人と19の時から29の時まで、そういうのの音楽とか舞台美術の制作とかやっていましたね。
江藤:とっても仲がいいですね。じゃあ友だちづきあいは気の合うやつとずっと・・・
松本じろ:そうですね。バイバイしたやつなんていないですからね。
江藤:うーん、男らしいですね。男らしいなんていったら、この場には女性の方もおられますけど・・・。
松本じろ:言われたのが初めてで気がつかなかったけれど、そうです。友達になったら長いですね。
江藤:なるほど。実はインタビューらしく質問リストみたいなのも用意して「好きな音楽は」と項目を作ってみたのですが、どうなんでしょう?
松本じろ:レコード棚に入っている人たちはみんな好きなので難しいですね。例えばさっきはショパンを聴いていて、ルービンシュタインていうすごい好きなおっちゃんがいるんです。そして、「ショパンは良いなー」と。特に嫌いな人はいないですね。
江藤:そして松本じろさん個人の話になりますが、今回サントラを出して「わーい」とかCDを焼くのに興味は?
松本じろ:今回はNEGAさんにCDを出してもらったんですよ。それに対する感想ですか?
江藤:ええ、バンド時代には結構刷ってらしたのか、それとも逆にCDを出すことを毛嫌いしていたとか。
松本じろ:うーん、そんなにないですよ。まあライブをやるじゃないですか、そのギャラなんて知れたもんだから飲み代稼ぎにカチャーンとCD-Rなんかを刷って適当にジャケットを作って売ったりして、本当に申し訳ないような出し方ですね。
本当にどっちにもこだわりがないんですよ。今回作ってくれて、「ありがとうございます」ってぐらいですね。何事もあまりこだわりがないんですよ。あるとしたらタバコの銘柄くらいでしょうか。
女性Uさん:飲み物は?
松本じろ:うーん、飲み物はサッポロが好きですよ。でもだいたい、味なんかわからへんからジャケットなんです、ジャケット(笑)。これは(当日のイベントに出演する)鶴田真由さんが買ってきてくれたんですよ。
江藤:お酒は強いんですか。
松本じろ:弱いですよ。ただ延々のんでるだけで、1日飲んでますね。
江藤:1日、酔いつぶれないで飲めるのはいいですね。
松本じろ:そうですねー。飲み屋に行ってもそんなにピッチ速くないですよ。それまでも飲んでるからね。あんまり・・・でもちゃんとつぶれますよ。
江藤:うーん、普通の人と比べて「120分飲み放題」みたいなのよりもバーに行ってしずしずと飲んでる方がコストパフォーマンスのいい感じですね。
松本じろ:120分の飲み放題って行ったことがないんですよ。お酒っていうのは時間を忘れるためなのに、なんで時間に追われなければいけないんだって思いますよね。そんなに慌てては飲みたくないな-。
江藤:お行儀の良いアートっぽい話になりますけれど「時間を忘れる」ということなんですね。
松本じろ:うん、これはボードリヤール・・・じゃない、誰だっけ。まあ詩人が言っていたんですよ。
江藤:あとで検索してみましょう。時間を忘れるためというのはお酒だけじゃなくてタバコでも何でも・・・
松本じろ:そうですね。タバコでも葉巻でもやるんですけど、大好きですね。葉巻は生活に値段っていうか合わないんで、やらないですけどね。1時間か1時間半で2000円かな。
江藤:いいですね。ぼく煙系がまったくダメなんですが。
松本じろ:楽しいですよー。紅茶とパイプとかスゴい面白いですよ。紅茶も色々な葉があるじゃないですか。それとラムとか楽しい、いいですよー。
江藤:いいですねー。
松本じろ:今から始めるっていっても結婚してると大変でしょ?
江藤:そうですね。別れてでも始めるという選択肢も理論的にはあり得るんですけどね。しかし、だいぶ嗜好品の代金が高そうですね。
松本じろ:葉巻とパイプとあって、パイプはそんなに高くなくてすっごい安いんですよ。タバコが二本分くらいで、1時間くらい吸えるんですよ。あれは燃えがおそいしゆっくりゆっくりだからものすごい安いですよ。
江藤:経済的ですねー。税金の関係とかもあるのかな。
松本じろ:そうです。僕は模範的なタックスペイヤーです。
江藤:酒税とたばこ税と・・・
松本じろ:そうです、もっとみんなが認めてくれるといいんですけど。
江藤:じゃあ、インターネットを通じて世の中に拡散しましょう。
松本じろ:でも僕あんまり声を大きくするのも好きじゃないんですよ。なんかの団体に参加したりとか・・・
江藤:今までのお話を伺ってると、「欲」がないですね。これは結構よく言われません?
松本じろ:そうですね。あんまり自分がないんです。
江藤:何かを「買いたい」というよりは、消費・・・とりあえず何かを飲んで時間を忘れたいとか、飲むとか吸うとか消えてなくなってしまうものが好きなんですかね。
松本じろ:ええ。まあ残りますけどね、肝臓に。
江藤:肝臓とか小脳に。色んなものに残りますね。
松本じろ:うん、一人で飲むのも好きなんですけれど友達と飲むのも好きなんですよ。でもそれもわーっと大勢で飲むんじゃなくて3、4人で。まあ2人でもいいし、昨日も3時まで本田さんと飲んでたし。相一郎くんとか帰ってさ。
江藤:何時くらいから飲んでたんですか。
松本じろ:うちが妊娠中なので、これはオフレコとして。
江藤:嫁さん向けのオフレコなんですね。
松本じろ:本番中は飲むよっていってありますけどね。弾くときとか、恥ずかしくて飲まなひけへんのですよ。それで、曲作るときも飲んでます。曲を作ったのを整理するときはしらふでやってるんですよ。プレイする前は飲んでます、照れるから。まあ3本くらいですけどね。昨日は何時から飲んでたかな。(ごにょごにょ) 時くらいかな。
江藤:記憶は曖昧、ということで。
松本じろ:うーん7本くらい空いていたんですよね。
江藤:空いた缶の数でカウントする、ということはありますよね。
松本じろ:うーんリットルではカウントしないですね。
江藤:忘れちゃいますよね。
松本じろ:忘れるの、好き。とくに欲しいものもないし。中目黒に住んでるけど、それも成り行きで、もともと奈良の山奥に住んでたんですよ。出てきたのが7、8年前からですかね。2年くらい一緒に住んでて、それから6年くらい結婚してますね。
いまだに奈良の山奥の方が好きなんだけど嫁さんの活動拠点が東京にあるからこっちに出てきただけで、僕は活動拠点とかはないですから。
江藤:それは「東京がいや」ってことですか、それとも「奈良の山奥ってこんなにいいよー」ってことですか。
松本じろ:うーん、奈良の山奥の方が何となく落ち着くんですよね。東京って地ベタがないし。ここ(原美術館)きたらやっぱり嬉しいですよ。お客さん帰ったら芝生でごろごろしてます。僕やっぱり山の子なんですよ。森の子というか、14件しかない村に。
江藤:14件は筋金入りですね。
松本じろ:普通に、イノシシとか鹿の方が多いですからね。ウサギ、ムササビ、リス・・・熊は出ませんけど。
江藤:ただ山奥の方だと、音楽へのアクセスは大変じゃなかったですか?
松本じろ:大阪とか京都までは普通に買いに行きますよ、中学校の時しんどかったですけどね。高校に入ったらすぐにバイクの免許を取るじゃないですか。そしたらま
た山が好きですね。バイクがあったらどこにも行けるし、奈良にも実はディープなレコード屋さんがあったりして、そのおすすめとかよく買っていましたね。
江藤:いいですね。
松本じろ:ものすごくお世話になりました。
江藤:今でも残ってるんですかね。ベタな世間話風になりますけど「帰省」とかしたときに。
松本じろ:「きせい」・・・きせいってなんですか、あぁ、「帰省」ですね。締め付ける方の規制かと思ってしまった。
江藤:どっちも似たようなものかもしれませんが。
松本じろ:そうーですね。ばあちゃんの死んだりして帰りましたよ、その前はもう一人のばあちゃんが死んだときに帰りましたよ。
江藤:死んだときばっかりじゃないですか。
松本じろ:いや、一年おきに死んだんです。まだ一人残ってますけれど、嫁さんのばあさんが一人。
江藤:ああ、そうかー結婚すると「婆ちゃん」って増殖するんですね。
松本じろ:そう、親戚も増える。親戚が増えると楽しいですよー。家族とか増えると楽しいですよ。家族は元々、兄ちゃんがいてね、んであと姉ちゃんもいます。今は大森に住んでます。こっちの人と結婚して。
江藤:もともとご家族も音楽好きだったんですか?
松本じろ:好きでしたね。親父は書家だったんですよ。奈良博にも出たりして、奈良国立博物館。そういう感じで父親からちょっとぐれてるから、兄もそういう感じだし非常に小さいときから音楽好きでしたね。
江藤:それで、大工と音楽家と医者なんですか。
松本じろ:うん、ただ医者には「手技」、手でやるやつには興味あるんですけれどね、嫁さんがダンサーだから身体がいつもぼろぼろになって帰ってくるんです。それをどうにか出来たらいいなーって。
まあ西洋医学の方は無理ですけどね。今からやろうと思っても、算数できんし。この前久しぶりにですね、「割り算」やろうとおもったらどっちに載せるのか・・・割りたいのが真ん中っていうのは分かるんですけど(笑)こっちに、2で割りたかったらどっちで割るのかっていう
江藤:(ノートに鉛筆で書いてみて)こんな感じですか?
松本じろ:そう、真ん中は分かったんだけど上に載せるのか左に置くのか分からなくなったんですよ。
江藤:じつは僕も2、3年前にそれで混乱してます。
松本じろ:僕は1年前ですね。大工をやっているときに、このパネルとパネルで、何ミリずつにすれば均等になるのかなっていうのでこう書いて・・・ああ、って。携帯出してしましたね。
江藤:それ、大工としては死活問題では。
松本じろ:大丈夫です。だいたい普通は図面に書いてるんです。その時は図面に書いてなかったからなんです。
~30分後~
江藤:いま、ビール2本目ですけれど、お酒を飲むときはどんなもの食べます?
松本じろ:自分で作りますね。寸胴鍋に入れて、野菜とか煮て、それで途中からケチャップを入れたりして最後はカレーにする。外でたべると美味しいものは高いし安いものはまずい。塩辛いものはあんまり好きじゃないですね。
まあお酒を飲んでいたら別に食べ物はなくてもいいし、本を読んで一日中酒を飲んでいたりとかしますしね。活字が最終的には踊り出すし、次の日に30ページくらい戻るんですけど。
でも、活字中毒ですね。何でも読みます。他に読むものがないと、(ビールの缶を手にとって)成分表とかも読みますし「ダイヤモンド麦芽を加え、華やかな香りと旨みが一層楽しめます」・・・あんまり良い文章じゃない。
うーん、これまででなにか書くことありましたかね。
まだデータがありません。