クラウドワークスに、司法書士事務所「新宿事務所」の「ステマ記事」依頼案件 違法事件化〜取材で指摘後に削除
業界第二位のクラウドソーシーソングサイト、クラウドワークスに堂々と、規約で禁止されているはずの「ステルスマーケティング」(ネット上のやらせ、サクラ的な宣伝をいう。いわゆる「ステマ」と略される)の依頼案件が10月15日まで掲載されていたことが分かった。そして、この中で依頼されていたのは、大手の司法書士法人「新宿事務所」の宣伝。依頼が実際に新宿事務所を通してきたものであれば、司法書士法施行規則と司法書士会の会則に反するおそれがあり、また、そうでない場合は同事務所への名誉毀損などに発展すると思われる。
まず、クラウドソーシングとは、ウェブサイトを媒介して各種の仕事、例えば内職やコピーライト作成、ウェブ作成などをマッチングさせるビジネス。ただし、本人の確認など(例えば免許証コピーの送付)は必ずしも必要ではない。
問題の案件は、鎌倉圭氏が社長を務める代理店「エスプロックス」と「ニュースタッフプロダクション」などを経営する、個人の名義で、上記のステマ案件が依頼されていたもの。ただ、ふつうはステマを堂々とステマとして依頼することは少ないと思われる(そもそも、一時的にでもステマを行うことを明示したら、少なくともそれを見た人にはステマの意味がなくなる。また依頼主のイメージダウンに繋がりうる)ため、念のため本人または彼の経営する広告代理店が実際に依頼をしたものか、を確認した。*
(依頼者とされる、鎌倉圭氏のTwitterアカウント)
そこで、鎌倉氏が社長を務めるエスプロックスへ問い合わせを数回したが、回答の期限を一週間以上過ぎてもお返事は得られなかった。
(KEIKAMAKURA氏の代表を務めるSPROXへの問い合わせ。この問い合わせに、直ちにご返答がなかったので幾度か電話で職員さんとやりとりをした後にメールを送信。)
また司法書士法人新宿事務所へ、本当に同事務所が、鎌倉氏(か彼の会社へ)が広告の依頼をしたのかどうか確認の問い合わせをおこなった。先週うかがえた返答によると、(1)事務所自身がステマを依頼することは司法書士会規則などに反しているのでありえない(2)広告代理店へ宣伝の依頼をすることはあるが、鎌倉氏および彼の経営する会社は、少なくとも直接の依頼先ではない(場合によっては2次受け、3次受けの代理店ではあり得る)、という。ただし10月31日午前10時、時点ではまだ依頼した代理店のルートからは、そのようなステマ依頼がいったとの確認はとれていないという。
なお、クラウドワークスの利用規約では、「著しく優良・誤認」させる宣伝を禁止している。しかし、なぜそれなら案件の依頼を通してしまったのか(というかパトロールして削除しなかったか)疑問である。以前にも、違法行為に近い案件があり、たとえば「まとめサイト」の作成案件が掲載されていたときに、著作権法違反の幇助にあたり得るのではないか、と指摘したときもそうとは思わないという反応だった。率直に言って、同社の順法精神を疑わざるを得ない。
(弊社がクラウドワークス社および、鎌倉圭氏の関係会社に質問、指摘した後、10月18日18時の時点で、案件が非公開または下書きに戻されている。ただしクラウドワークス社からの反応はなかったが、後述のようにクラウドワークス社には、事実関係によっては、犯人隠匿罪の成立する余地がある。)
まだ判明していない事実関係についていくつかの場合があり得るので、鎌倉氏、司法書士法人新宿事務所、クラウドワークス社のそれぞれについて、どのような違法行為が成立し得るか説明する。
まず、鎌倉圭氏については(1)新宿事務所または間に入っている上位の代理店から「ステマ」の宣伝をして欲しいという依頼を実際に同事務所の承諾のもとで受けている場合には、司法書士法違反の違法行為に荷担していることにはなるが、犯罪は成立しない。(2)もし、新宿事務所から、あるいは、同事務所を宣伝したいと思っている誰からも依頼を受けずに、自己の判断であるいは同事務所の評判を落とそうと考えている者の依頼を受けて、「ステマ」を依頼する案件をウェブに載せていたら、新宿事務所に対する名誉毀損罪が成立する。また別途、民事で新宿事務所に対して損害賠償責任を負いうる。(3)ただ仮に、クラウドワークスに依頼をしたのが、鎌倉圭氏の偽物(なりすまし)であった場合、今度は逆に鎌倉氏が名誉毀損罪の被害者となり、またなりすました相手方に民事の損害賠償請求を請求しうる。
次に、司法書士法人新宿事務所については、(1)実際にステマを鎌倉氏に対して、または間に入っている代理店にであれ依頼していた場合、懲戒処分の対象となって業務停止などの措置を受けることがある*(2)一次受けの代理店に依頼した時点ではそんなつもりはなかったが、途中で勝手にステマを宣伝方法として取られた場合、そのような措置の対象になるかどうか不明である。(管理監督責任の有無などで場合分けになるかもしれない)。(3)そして同事務所は頼んでもいないし、下請けの代理店からも依頼がいっていないのに、鎌倉圭氏が勝手にステマ案件を掲載していた場合、名誉毀損罪の被害者となり、民事の損害賠償も請求しうる。(4)また、鎌倉氏になりすました他人から同様のことをされた場合にも、その者による名誉毀損罪の被害者となり、民事の損害賠償も請求しうる。
最後に、クラウドワークス社について見てみるともし、(1)鎌倉氏が意図的に新宿事務所の評判を落とそうとしていた場合にそれを認識認容しながら書き込みを放置した場合には新宿事務所に対する名誉毀損罪の、幇助犯などが成立しうる(プロバイダー責任法は民事の損害賠償請求の制限について定めた法律であって、解釈が定まっていない面はあるものの、直ちに刑事の責任を免責するものではない)。(2)鎌倉氏になりすました他人が意図的に名誉毀損の書き込みをしていた場合にそれを認識認容しながら書き込みを放置した場合には、私文書偽造罪の幇助犯と、鎌倉圭氏および新宿事務所双方に対する名誉毀損罪の幇助犯が成立しうる。(3)そして、上記までに上げた、名誉毀損罪と私文書偽造罪のいずれかが成立しうる場合に、案件を下書きにして閲覧不能へしたのがクラウドワークス社であった場合は、この二罪について、証拠隠滅の罪が成立しうる。
なお筆者の印象としては、鎌倉氏の会社の対応がこれまでのところ非常に不自然で、「なりすましをうけたのではないか」と言った簡単な質問にすら回答期限を過ぎてもお答えいただけないので、あまり筋がよろしくない印象を持っている。またクラウドワークスも、「規約違反ではないか」の質問に答えないというのはまずく、運営が余りにいい加減で問題がある。
いずれにせよ、長くなったが、以前にもクラウドワークスは自社の評判についてランサーズ(業界最大手)との間でステマをしたのしてないので、問題になったことがある。以前の事件と会わせて、この業界の匿名性が違法行為の温床になっており、非常に危なっかしい印象を受ける。
遠隔地の他人にオークションなどの形式で必要に応じて仕事を頼める、というクラウドソーシングが形式はとても面白く有益なビジネスモデルだと思う。見知らぬ他人同士でモラルのタガが外れるのか分からないが、運用面での管理をまともに行わないと社会的に迷惑なビジネスになる可能性がある。
* ただ、ステマ案件の場合あらかじめ明示しておかないと、仕事を発注してから途中になって「こんな違法まがいの仕事はいやだ」と言われたり、サイト運営者(この場合、クラウドワークス)に、当初の依頼と内容が違うなどと通報されたりする面倒が生じる余地もある。鎌倉氏はそのリスクを減らしたかったとすれば、合理的な説明がつく。
** まず、司法書士法では会則の遵守義務が定められ、第二十三条 で「司法書士は、その所属する司法書士会及び日本司法書士会連合会の会則を守らなければならない。」とされ、東京司法書士会の会則では誇大広告を禁止する(第百一条 会員は、自己の業務について広告をすることができる。ただし、虚偽もしくは誇大な広告又は品位を欠く広告は、この限りではない)。
(規約)
この「虚偽もしくは誇大な広告又は品位を欠く広告」がどういうものかについては、司法書士法施行規則においても「依頼誘致の禁止)」(第二十六条)で「司法書士は、不当な手段によつて依頼を誘致するような行為をしてはならない」とされ、同条は規則第三十七条で司法書士法人についても準用されており、やや抽象的な表現ではあるがいちおうの参考になる。
ようは、全体としてインチキな広告はダメということである。しかるに、「ステマ」広告は一般に身分を秘したサクラ行為のようなものをさすため、これを行えば露骨に、司法書士法の定める会則の遵守義務に違反することになる。そして、司法書士法は「司法書士法人に対する懲戒」の規程を第四十八条で定めており、主たる事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長によって処分が科せられる(戒告、二年以内の業務の全部又は一部の停止、解散など)
なお、この処分を求める「懲戒の手続」は同法第四十九条によれば、誰でも、法違反の事実があると思うときは、所在地の法務局または地方法務局の長に、当該事実を通知し、適当な措置をとることを求めることができるということになっている。
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